汽水域研究センターが所有する分析機器


測定・分析

 電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)、低バックグラウンド液体シンチレーションシステム(14C年代測定)、軽元素ガス同位体比質量分析システムなどの測定、分析機器を設置しており、多角的な分析をおこなっています。
電子プローブマイクロアナライザ(日本電子 JXA-8800M)
低バック液体シンチレーションシステム(ファルマシア,LKB1220 クアンタラス)およびベンゼン合成装置(柴田科学)
軽元素ガス同位体比質量分析システム(フイニガン・マット,デルタS)
自動水質分析装置(AACS-1)

電子プローブマイクロアナライザ(日本電子 JXA-8800M)

 電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)は、細く絞った電子線を試料表面に照射して、その部分から放射される特性X線の波長と強度を線分光器で測定し、その微少部分(最小径10ミクロン程度)に含まれている元素の定性または定量分析(5B〜92U)をする装置です。また、この装置では一般の化学分析のように試料を溶解したりすることなく、非破壊で分析することができるのが特徴です。
 今回設置される装置(JEOL JXA-8800M)は、3台の分光器を持ち、同時に3元素の分析が可能です。分析条件をコンピュータにより高精度で制御し、自動運転が可能であるとともに、測定によって得られたデータを高速に処理し、それらを表現する画像処理機能をも備えています。
 具体的には、未知試料に含まれる元素についての定性分析であれば、10分程度の時間で含まれる元素をすべてリストアップすることができます。また、金属、ガラス、セラミックス、砂、泥、岩石、鉱物などの試料について定量分析をする場合、10元素程度のものであるならば、分析点と分析元素を指定するだけで数分間の間に定量分析をする事ができます。さらに、装置はコンピュータにより自動化されており、あらかじめ多数の分析点を指定しておくことにより、昼夜自動無人運転により数日後に多数のデータを得るということも可能です。また、超高速での面分析をおこない、元素濃度をカラーグラフィック表示(カラーマップ機能)し、それをカラープリンタによりハードコピーすることが可能です。また、カラーマップで得られたデータ間の演算も可能で、たとえばMg/(Mg+Fe)といった元素比のカラーマップ表示をすることもできます。ハ


低バック液体シンチレーションシステム(ファルマシア,LKB1220 クアンタラス)およびベンゼン合成装置(柴田科学)

 汽水域の環境変遷やそこに生活していた人々の様子を解きあかすためには、底泥中に残された様々な自然物質や遺物を解読することが必要です。このとき常に論議となるのは「これは、一体いつの時代に埋積(堆積)したものだろうか?」という問題です。本システムは、この年代を測定するのに威力を発揮します。本システムは、特に14C年代を測定するのに開発されたバックグランド放射能の低い液体シンチレーション計測装置です。例えば、木片、骨、貝などに含まれる炭素中の14Cの放射能レベルを調べることによって、それらが出土した年代を数百年〜3万年の範囲内で決定することができます。
 測定原理を簡単に説明しますと、14Cは弱いβ線を出す放射能性物質ですが、これは大気上空で窒素に宇宙船があたって常にほぼ一定の割合で生成しています。この14Cが木や骨や貝などに固定されると、半減期5730年で指数関数的に減少していきますので、その放射能強度を測ることで年代が求まるわけです。測定に際しては、液体シンチレータを混合させ、β線を可視光に変換して計測します。この方法は、ガイガーカウンタ、比例計数管等の通常の放射線計測機器に比べ、エネルギーの低いβ線を精度よく測定するのに適しています。
 シンチレータと炭素を均一に混合するためには、炭素をベンゼンにしてやる必要があります。そこで用いられるのがベンゼン合成装置です。この装置は、真空ラインと反応釜が接続したもので、木片や骨や貝などは、この真空ライン中で二酸化炭素にされ、アセチレンを経て最終的にベンゼンとなります。このベンゼンが約1Mあれば、低バック液体シンチレーションシステムによって年代を決めることが可能となるわけです。
 なお、本システムは、エネルギースペクトル解析によって14Cの他にも3H・90Sr・137Cs・226Ra等の放射性核種の定性・定量ができ、地下水の挙動解明、環境評価等にも応用することができます。ハ



軽元素ガス同位体比質量分析システム(フイニガン・マット,デルタS)

 汽水域の堆積環境は塩分濃度などの変化に微妙に左右され、その堆積物は海水準変動や古水温の変化、陸起源・海起源有機物の供給量変化などを記録しています。これらのうち、古水温・塩分濃度等の変化量は酸素同位体比によって、陸起源・海起源有機物の供給量変化は炭素同位体比によって復元することができます。本システムはこのような解析ができる軽元素の同位体比を測定する装置です。本システムには、微量ガスが測定できるようにマイクロボリュウムインレットシステムが装備されています。また、コレクターに6個のファラデーカップが装着されていますので、二酸化炭素、窒素、および二酸化硫黄などを測定することが機械的には可能です。
 測定原理を簡単に説明しますと、純粋な軽元素ガスをイオン源に送り込み、軽元素分子をイオン化させ、その分子の進行方向を強力な磁場で曲げます。その軽元素分子は質量数によって曲がる率が違うので、それぞれの質量数に分かれて進行します。それをコレクターでキャッチすることによって、同位体比を測定します。実際には、その測定を標準サンプルと測定サンプルで交互に行い、標準サンプルとの違いを千差率で表します。
 本システムは装置を操るよりも、純粋な軽元素ガスを精製する前処理が難しく、それぞれの軽元素ガスに特異なノウハウと精製ラインが必要です。現段階では炭酸塩(ドロマイトを除く)あるいは有機物から発生させた二酸化炭素を使って、酸素と炭素の同位体比を測定することしかできません。将来的には、窒素、二酸化硫黄などを用いて窒素や硫黄同位体比を測定することが可能になるでしょう。ハ


自動水質分析装置(AACS-1)

 ブラン・ルーベ社のAACS-1は、水圏の富栄養化の原因となっている窒素・リンを、精密・正確に自動定量分析する機械です。測定できる標準項目としては、NO2-N, NO2+NO3-N, NH4-N, PO4-P, T-P, T-Nで、測定原理はNO2-Nがジアゾ法、NO2+NO3-Nがカドミウム還元ジアゾ法、NH4-Nがインドフェノール法、 PO4-Pがモリブデンブルー法で、一般には手作業で行うこれら化学分析を自動的に行うものです。窒素やリンを分析する機器としては他にイオンクロマトグラフィーやキャピラリー電気泳動装置がありますが、どちらも塩素イオンの影響を受け易く、この点で宍道湖・中海といった汽水の水質分析には化学分析法がより適しているといえます。
 自動分析とはいってもAACS-1では上記の項目すべてを同時分析することはできず、ペリスタポンプで制御された2つの流路を使用して2項目を同時分析することになります。通常は NO2+NO3-NとNO2-Nの組み合わせおよびNH4-Nと PO4-Pの組み合わせを行います。サンプル水をサンプルカップに取り、サンプラーにセットしたあとの操作はすべてコンピューター制御で行われます。サンプラーには40個のサンプルカップがセットでき、1時間に約90検体の分析が可能です。これまでに使用してみた感想では、洗浄・分析試薬の準備やベースとゲインの調整などにかなり時間がかかりますが、一度始動すれば大量のサンプルを短時間に分析できる利点があります。


人工衛星を利用した汽水域環境監視システム

 本システムは宇宙開発事業団 (NASDA) 地球観測センター(EOC;埼玉県鳩山町)から衛星画像のカタログデータを受信するクイック・ルック画像伝送装置(Q/L装置)と、画像データをさまざまな目的の為に解析処理をするリモートセンシング画像処理装置からなっています。
 EOCで受信された衛星のデータは、まず簡単な処理を済ませたカタログ画像とその注釈情報に整理されます。今回導入されたQ/L装置には毎日定時に注釈情報が送られてきて、それらがデータベース化されるようにセットされています。そして、その情報から見たい画像を検索し、ISDN(INS64)のデジタル回線を通じてEOCから画像を引き出すことができます。この画像は主に雲量や画質などのチェックに用いるカタログ画像で、解析処理などを行うことはできませんが、火山噴火や災害の概況把握、あるいは概略的な地形図の代わりに用いることができます。現在、日本のMOS(もも)、JERS(ふよう)、アメリカのLANDSAT、フランスのSPOTの画像が入手可能で、当センターでは中海・宍道湖域についてそれらのQ/L画像データベースをつくりつつあります。
 CCTなどに記録されたマルチバンドの衛星データはSUN4ワークステーションに搭載されたリモートセンシング画像処理ソフト・VI2STA(米国I2S社)で解析処理をします。フォールスカラー、シュードカラー画像の作成や、各種画像強調、バンド間演算をはじめとして、リモートセンシングに必要なほとんどの画像処理が可能です。また、ほとんどすべての衛星データおよびデータ・フォーマットに対応しています。最近では衛星画像データを他の既存のデータとリンクさせ、地理情報システム(GIS)の一部として活用することが多いようですが、当センターのSUN4にはGenaMap(米国GENASYS社)というGISもインストールされています。GenaMapは使用法がやや複雑ですが、中海・宍道湖の既存の観測データなどと衛星データを重ね合わせたGISを徐々に構築していこうと考えています。
 なお、近い将来Q/L画像に代わってある程度の解析が可能な画像データが、EOCから随時送られてくるようになる、とのことです。本システムもこの新システムにほぼ対応するように設計されており、導入時に行ったEOCからのマルチバンド画像データ伝送テストでは良好な結果を得ています。新システムが軌道にのれば、全国の汽水域の準リアルタイムでの観測も夢ではなくなります。ハ