再びBelle Baruch研究所へ

長期継続観測が研究の原点

  高安克己(汽水域研究センター)

 3年半ぶりに再びサウスカロライナ大学(USC)のベル・バルーク研究所を訪問しました.前回と同じく文部科学省の創造開発経費による派遣であり,今回は主に観測データの利用・活用のためのシステムの視察と,大西洋岸の河口域研究の現状について把握することが主な目的でした.3月はじめでちょうど春休みに入ったばかりだったためか,調査や休暇を利用した旅行に出かけている人が何人かいましたが,前回の訪問で知り合った研究者や学生さん(すでに大学院生になっていました)にも再会することができました.研究所の所長はProf. M. Fletcher(微生物生態学),North Inlet-Winyah Bay全米河口域研究保護システム(NERR; The National Estuarine Research Researve)の指定地域の一画にある付属の臨海実験所(BMFL; The Baruch Marine Field Laboratory)の所長もProf. D. M. Allen(魚類生態学)で変わりなく,他のスタッフもPDFを除けば前回とほとんど同じで,水質や魚類分布など相変わらず根気のいる継続観測・調査を続けていました.BMFLが20年以上も続けているこの長期継続モニタリングデータはNERRシステムや全米科学財団(NSF)の長期生態研究(LTER)サイトのwebを通じて発信されています.また,このデータに支えられてBMFLには米国内外から多くのプロジェクトの申し込みがあり,2001年度にはUSCから研究者36名,技術者21名,学生19名,他の21大学・機関から研究者29名,技術者4名,学生4名が参加して86件のプロジェクトが走っていたそうです.なお,プロジェクトをテーマ別に見ると,長期モニタリングおよび調査関係(15件),物理的および生物地球化学的過程に関する研究(11件),生物学および生態学に関する研究(42件),人為的影響に関する研究(13件),環境教育などに関するプロジェクト(5件)でした.

 BMFLの施設を使ってUSCが行っているユニークな教育プログラムにMARE(The Marine and Aquatic Research Experience)があります.これは学部学生を対象に海洋や水域調査の方法,計画のたて方,データの扱い方などを訓練するオープンカリキュラムで,USCの海洋地質学者のProf. Douglas Williamsが提唱した「科学的探求へのデザインと実行」の考えを実践したものです.科学的なものの見方を体験的に学習できるシステムとして,ぜひわが国にも取り入れたいプログラムです.わが汽水域研究センターとも協力して,このプログラムを国際的に発展させようと言う提案もありましたので,今後,検討・準備を進めていきたいと考えています.

 日程の後半はそのProf. DWilliamsに案内してもらってサウスカロライナ州南部のHunting Islandにいきました.ここは奴隷制度時代にもたらされたアフロ・アメリカン文化の原形が今も残されているところで,広大なエスチュウアリの湿地を抱く砂州の一つです.最近,この島では写真で示すように海岸浸食が激しく,州の木でもあるパルメットの林が削り取られていく光景をまのあたりにしました.流域からの砂の供給量の変化や温暖化による海面上昇などが考えられ,現在調査中とのことでした.

 汽水域研究センターでは今後もベル・バルーク研究所との研究交流や人的交流を発展させていくつもりでおります.なお,ベル・バルーク研究所のwebサイトはhttp://inlet.geol.sc.edu/です.興味がおありの方は是非アクセスしてみて下さい.

North Inletにあるバルーク研究所フィールド・ラボ

 左からProf. D. Williams, 私, Prof. D. Allen, Dr. D. Bushek

Hunting Is.の海岸浸食.砂浜から突きだしているのはパルメットなどの木々の根株.中央に崩壊したロッジが見える.