「アマモ場の魚類群集構造の形成機構」
汽水域研究センター・助教授 堀之内 正博
沿岸浅海域にしばしば見られるアマモ場には多様な魚類が生息し,またその個体数も多いといわれています.しかしアマモ場の魚類群集構造の形成機構についてはあまり明らかにされていません.そこで,神奈川県油壺で行った調査の結果から,どのような機構のもとで,アマモ場の魚類群集構造が形成されていると考えられたのかを紹介しました.併せて,生息場所の複雑性が魚類群集に与える影響やアマモ場内外での捕食圧の違い,アマモ場周囲の砂地における魚類群集構造の形成機構等についても,調査結果を踏まえながら話題を提供しました.
「汽水域の沿岸部を利用する人間と生息場所とする生物の共存」
汽水域研究センター・助教授 倉田 健悟
これまで私は塩性湿地に生息する2種の巻貝の生態学的特徴を比較検討し,互いに生活型が類似する近縁種間の共存機構について研究を行ってきました.彼らの生息場所である汽水域の岸辺は人工護岸等に改変され,次第に生息範囲が小さくなってきています.宍道湖や中海の周囲においては,護岸や植生を適正に管理し,生物群集の保全に努めることが重要であると考えます.今後は,汽水湖の沿岸部を持続可能な利用のもとでいかにして保全すべきかについて,研究を進めるつもりです.
「行雲流水」という言葉の意味するところは「成り行きにまかせて動く」ことですが、実際には、行く雲も流れる水も物理法則に従って動いているのであり、成り行きまかせではないのです。それらの動きの背景が理解されていなかった時代の人々が、流浪する人間の生き方をそれらになぞらえたに過ぎないのです。この度「中海・宍道湖」という、私にとっては初めての汽水域システムを研究する機会に恵まれました。私自身は流浪の研究者ですが、研究の方は成り行きまかせでなく、私の刀である「生物間相互作用―種多様性―物質循環」関係をもって、少しでも多く、このシステムを切り込んでみたいと思います。
11月16日付けで非常勤研究員に着任しました宮本 康(ミヤモト ヤスシ)です。よろしくお願い致します。
茨城県で生まれ、学生時代を札幌と函館の地で過ごし、1回目のポスドクを関西で経験、そして今回、名古屋での非常勤講師の仕事と兼任で、ポスドク2回目の生活をここ島根県で送ることになりました。この半生の間に北海道・関東・中部・関西・中国地方と日本列島をほぼ縦断し、加えてこの年になりながら独身で非常勤と、まるで「行雲流水」を絵に描いたような人生を送っています。
行雲流水ぶりは、これまでの研究歴にも若干ながら表れています。私はこれまで、水域(岩礁潮間帯)と陸域(河畔域)という全く異なるシステムを対象として、「生物間相互作用―種多様性―物質循環」の関係に興味を持ち、研究を行ってきました。そして、これまでの研究から、生物間相互作用が種多様性の維持に大きな影響を与えていること(岩礁潮間帯)、そして、生物間相互作用が物質の循環速度を制御していること(河畔域生態系)を見出してきました。行く先々で出会った生態系の中で、「種多様性」「物質循環」といった生態系の属性が、生き物どうしの関係である「生物間相互作用」に強く支えられていることを知り得たわけです。
2002年11月より汽水域研究センターでお世話になります高田裕行です.昨年秋に,北海道より松江にやってまいりまして,先日まで総合理工学部で研究生をしていました.
これまで行ってきた仕事は,主に汽水域に生息する現生底生有孔虫(原生生物)の 生態に関するものです.私自身の有孔虫研究は,化石群集解析からスタートしたので すが,それがこうじていつしか,その生態の方に少なからず関心を持つようになって きました.これまでの主な関心事は,温暖な水域を好む種が,寒冷水域でどのような 生き様を取っているかというものでした.と言っても,実際のところは,北海道はサ ロマ湖で毎月試料採取をして,個体群の季節変動を観察するという単純作業が主でし た.冬ともなれば氷点下の寒さに凍えながら,湖底泥を採取するために結氷した湖表 面を手作業で穴あけするというのは,骨がおれたものです.その甲斐あって,「彼ら は結氷期の0℃近い低温条件でも子を産めるが,それらは成熟の途中で死滅する.結 局は暖かい時期に生まれた個体だけが越冬する.」という,いささか変わった生き様 が断片的ながらわかってきました.