研究

研究活動の概要

 塩分の変動の大きい汽水域では生態系は動的な平衡を示す。すなわち、短期的には出水や高潮などの外的要因の変化により生態系は急激な変化を表す一方、長期的にはそのような塩分変化に対応した生物群集が成立している。また、淡水側の陸上および海水側の海洋から栄養塩や餌物質が汽水域を移出入し、多くの動物種が汽水域を含む水域で生活史を送っている。さらに、汽水域は人間の活動の影響を強く受けやすく、汽水域の生態系は人間活動の影響を無視して明らかにすることはできない。
 以上のことを踏まえ、汽水域生態系部門では次のような研究テーマの構成で研究を推進することとした。
(1) 汽水域生態系の動態の解明-短期的および長期的視点による生物群集の解析
(2) 汽水域をつなぐ連続した水域における物質循環および生物の生活史の解明
(3) 汽水域生態系における人為的影響による生物多様性の変化とその機構の解明
 汽水域生態系部門では国内外の様々な汽水域において上記の課題に取り組んでいる。汽水湖、熱帯-亜熱帯マングローブ域、熱帯-温帯海草藻場、河口干潟、塩性湿地、などの様々な汽水環境で調査研究を行っている。主なフィールドとして次の場所が挙げられる:中海、宍道湖、大橋川、浜名湖、サロマ湖、八重山諸島、タイ国。

●キーワード:群集遷移、群集生態、生物間相互作用、生態系モデル、影響評価

●汽水域を研究対象とする理由(学問性):(1) 短期的には出水や高潮などの外的要因の変化により生態系は急激な変化を表す一方、長期的には塩分変化に対応した生物群集が成立し、汽水域生態系は動的な平衡を示す。(2) 淡水側の陸上および海水側の海洋から栄養塩や餌物質が汽水域を移出入するとともに、汽水域の内部生産に由来する物質循環が行われている。(3) 多くの動物種が汽水域を含む水域で生活史を送っている。水産上重要なものを含む様々な種が汽水域に出現し、中には生活史の一時期のみ汽水域を利用するものもいる。

●汽水域を研究対象とする理由(社会性):(1) 我が国の代表的な汽水湖である中海と宍道湖の研究データの蓄積により、汽水域生態系の研究モデルサイトとして将来的な有用性がある。(2) 過去の中海と宍道湖の人為的改変の歴史を振り返ると、汽水域は人間の活動の影響を強く受けやすく、人間活動の影響を排除して汽水域生態系の構造と機能を明らかにすることはできない。(3) 今後も持続的に中海・宍道湖の資源を利用していくためには、汽水域生態系の特性を理解することが必要不可欠である。

●解決すべき課題と社会への貢献:(1) 汽水域は地球温暖化の影響を受けやすいため対応策が必要→将来的な気候変動に対する汽水域生態系の応答を予測する。(2) 生産性の高い汽水域生態系の持続的な利用に関する情報が必要→汽水域を含む水域の生態系サービスの賢明な利用を提言する。(3) 生物多様性基本法等により汽水域の生物多様性の保全が重要→生物間相互作用を考慮した生物多様性の保全を提言する。

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研究テーマ

これまでに取り組んだまたは継続中のもの

1. 島根県大橋川におけるヤマトシジミとホトトギスガイの個体群動態(平成17年度〜現在)
島根県大橋川において優占する二枚貝類のヤマトシジミとホトトギスガイの長期的な個体群動態を追跡した。

2. 堤防開削の前後における中海本庄水域の底生動物群集の変化(平成18年度〜現在)
中海本庄水域において人為改変前後の底生生物の変化を調査し、堤防の撤去や一部開削の影響を考察した。

3. 安定同位体比を利用した宍道湖と中海の食物網の解析(平成16年度〜現在)
宍道湖と中海において二枚貝類などの一次消費者の餌となりうる物質と底生生物の炭素および窒素安定同位体比を測定して塩分環境や食性との関連を調べ、底生生物が局所的な餌資源の利用可能性に依存していることを示した。

4. 島根県朝酌川における河川環境の流程変化と健全な水循環に関する研究(平成20年度〜平成27年度)
島根県朝酌川の調査を行い、半年ごとに汽水域と淡水域に変化する下流部の河川環境を把握し、健全な水循環の可能性について考察した。

5. 北海道東部の汽水湖における底生生物群集の調査(平成17年度)
北海道東部の代表的な汽水湖(サロマ湖、能取湖、網走湖など)において、沿岸部と湖盆部の底生生物群集を調査した。これまで全地点の試料の前処理が終了し、現在より下位のレベルの同定作業を進めている。

6. ニュージーランドの沿岸域における底生動物の安定同位体比解析(平成15年度〜平成16年度)
ニュージーランドの土地利用が異なる集水域を持つ近接した2つの沿岸域内湾において、干潟の底生動物と堆積物および海藻類の安定同位体比を測定し、人為的汚染の影響を示す指標としての窒素安定同位体比の利用可能性を述べた。

7. 宍道湖と大橋川の岸辺景観構造の解析(平成14年度〜平成15年度)
護岸の建設により自然の岸辺が少なくなった宍道湖と改修事業が計画されている大橋川を対象に、デジタルビデオカメラで撮影した画像を分析して典型的な岸辺景観を抽出し、宍道湖と大橋川を特徴づけている岸辺景観構造を明らかにした。