第56回日本生態学会でポスター賞受賞

 2009年3月17−21日に岩手県立大学で開催された第56回日本生態学会で,下記の研究がポスター賞を受賞しました(保全部門:優秀賞).

題名:斐伊川水系における準絶滅危惧種オオクグの遺伝的多様性評価
発表者:大林夏湖・程木義邦・國井秀伸(汽水域研究センター)

内容の概略
 海岸や河川干潮域に発達する塩性湿地植物群落は,沿岸開発や埋め立てなどの人為的な地形改変による直接的・間接的な影響を受け,生育地の縮小化や分断化が顕著な場の一つである.本研究の対象種であるカヤツリグサ科スゲ属のオオクグ(Carex rugulosa Kuk.)もこのような場所に生育し,環境省のレッドリストで準絶滅危惧種(NT)に指定されている塩性湿地植物である.本研究では,現存するオオクグ個体群の遺伝的多様性の評価と保全単位の検討を行うことを目的とし,オオクグに特異的な7遺伝子座のマイクロサテライトマーカーを用い(1)島根県斐伊川水系内の13局所個体群,(2)日本国内の6地域個体群の遺伝的多様性の評価を行った.また,オオクグの種内変異とその地理的分布の把握を目的とし,(3)葉緑体DNAの非翻訳領域によるハプロタイプ分析の解析も進めているので,本結果も合わせて報告する.
 全国の生育地を比較した結果,オオクグの大規模群落は潟湖や河口域砂州に見られ,このような生育地では遺伝的多様性も高い傾向が見られた.一方,小規模な個体群は,堤防の法面やその前面の小規模な寄洲など,既に人為的な環境改変の影響を受けている場所が多く,わずか1-2遺伝子型(ジェネット)で構成されている個体群も多く確認された.また,生育面積と遺伝子型数,アリル多様度に有意な正の相関がみられ,オオクグの遺伝的多様性を維持するうえで現存する大規模個体群は重要であり,現状のまま保全・維持する必要性が示唆された.次に,島根県斐伊川水系内の13局所個体群を比較したところ,塩分が5-15psuの範囲に遺伝的多様性が高い大きな個体群が存在していた.これは,本種の塩分耐性能,種間競争,および生育地の形成に関わる環境要因との兼ね合いで,生育適地を塩分によってある程度説明できることを示している.
 なお,本研究で現地調査及び多様性解析を行った個体群の多くは環境省の「重要湿地500」に選定され積極的な保全が望まれている場所である.しかし,河川改修や淡水化が計画されている生育地,遊歩道や散策路の設置により塩水の流入阻害がありヨシや他の淡水性湿性植物や陸生植物と混在している生育地も多く,塩生植物である本種の特性を踏まえ,今後,中長期的視点に立った適正な保全策が求められるだろう.