松江(2002〜)

研究内容(詳細な説明)

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以下、研究テーマごとに概要を説明し、(1)〜(4)の視点での自己評価を記載し、関係する研究資金と成果の公表の状況を示した。 (1) 新しい研究分野の開拓、(2) 教育研究活動に反映された例、(3) 社会的ニーズとの関わり、(4) 社会貢献、(5) 今後の課題。

【連結汽水湖の変動する環境下における生物適応】
概要:島根県大橋川においてヤマトシジミとホトトギスガイの個体群動態を研究した。 期間:2005〜現在 共同研究者:平塚純一、川上豪、桑原正樹 資金:PNファンド、科研費若手A、島根大地域志向 成果発表:斐伊川百科、バルセロナシンポ、信州大シンポ、PNファンド報告書、PNファンド発表会、ベントス学会、汽水域研究会 詳細:[島根県大橋川におけるヤマトシジミとホトトギスガイの個体群動態]将来の気候変動や人為的改変による汽水域生態系の変化を予測することは重要である。大橋川は異なる塩分の宍道湖と中海を繋ぐ汽水域の河川である。大橋川の定点で毎月底生生物を採集して優占する二枚貝類のヤマトシジミとホトトギスガイの長期的な個体群動態を調べた。2種の分布と現存量は大橋川を遡上する塩水の動態と強い関係があると考えられた。海水面の上昇や河川改修による塩水遡上のパターンの変化は、これらの二枚貝類の個体群動態を変化させることが示唆された。 (1) 外的要因の変化に対応した汽水域生態系のダイナミクスを監視する生態学的手法の可能性を示した。 (2) 学会やシンポジウム等で研究成果を発表し、また学内の講義において研究事例として使用した。 (3) 計画されている大橋川改修事業において、予測される環境影響を示すデータとして有用であった。 (4) 宍道湖の重要な水産資源であるヤマトシジミの生態学的情報を収集し、今後の監視体制を整えた。 (5) 汽水域生態系の年変動が大きいことから、複数のモニタリング調査を長期間継続するための資金や人的労力を確保する必要があるものの、その見通しがつきにくい。 2005年度(第16期)プロ・ナトゥーラ・ファンド「島根県大橋川の汽水環境の保全に関する研究」 2006年度(第17期)プロ・ナトゥーラ・ファンド「島根県大橋川の汽水環境の保全に関する研究」 平成20年度科学研究費補助金(若手研究(A))「宍道湖と中海を繋ぐ大橋川の汽水域生態系における生物群集の長期的変動」 大橋川の汽水環境を調べる会(倉田健悟・堀之内正博・戸田顕史・平塚純一・品川明・瀬戸浩二・高田裕行・香月興太・石飛裕)(2008年1月)島根県大橋川の汽水環境の保全に関する研究. 2006年度(第17期)プロ・ナトゥーラ・ファンド助成研究報告書, 66 pp. 倉田健悟(大橋川の汽水環境を調べる会):「島根県大橋川の汽水環境の保全に関する研究」第13回 プロ・ナトゥーラ・ファンド 助成成果発表会. 主婦会館プラザF(2007年12月8日) 倉田健悟・戸田顕史・平塚純一:「島根県大橋川における出水前後の底生生物群集の変化」2007年日本ベントス学会・日本プランクトン学会合同大会. 横浜市立大学(2007年9月24日) 倉田健悟・平塚純一:「大橋川におけるヤマトシジミとホトトギスガイの個体群動態-2006年夏の出水の影響」平成19年度生物系三学会中国四国支部大会鳥取大会. 鳥取大学工学部(2007年5月20日) 大橋川の汽水環境を調べる会(倉田健悟・堀之内正博・戸田顕史・平塚純一・布村昇・品川明)(2007年3月)島根県大橋川の汽水環境の保全に関する研究. 2005年度(第16期)プロ・ナトゥーラ・ファンド助成研究報告書, 29 pp. 他の機関との共同研究:島根野生生物研究会の平塚純一博士と島根県環境保健公社の戸田顕史氏との共同研究である。

【堤防が開削された本庄中海水域〜宍道湖の底生生物群集】
概要:堤防開削前後における中海本庄水域の底生動物群集について研究した。 期間:2006〜現在 共同研究者:瀬戸浩二、山口啓子、園田武 資金:島根大重点プロジェクト、河川財団(瀬戸) 成果発表:Laguna、煙台シンポ、ベントス学会誌(山口)、ベントス学会誌(篠原)、新春発表会 詳細:[堤防開削の前後における中海本庄水域の底生動物群集の変化]干拓淡水化計画の事後処理として本庄水域の森山堤の開削が行われる。人為的に半閉鎖的になった水域が部分的に原状に近くなる数少ない事例であり、この堤防開削前後の底生動物群集の変化を調べることとした。年に1回、広域的な分布調査を行い、毎月、定点にて採集を行っている。これまでおよそ2年間の試料が収集され、現在鋭意分析を進めている。 (1) 水理動態の変化が経時的に空間的に底生動物群集の種組成と現存量に及ぼす影響を明らかにできる。 (2) 採集した試料の前処理作業(ソーティングと簡単な同定)を通じて学部学生の研究意欲を高めた。 (3) 堤防開削による中海と本庄水域の変化は地域住民の関心が高く、今後の監視結果が期待されている。 (4) 人為的改変の後始末である環境変化が汽水域生態系に及ぼす事例として全国に発信する予定である。 平成16年度〜平成18年度島根大学重点プロジェクト経費「汽水域の自然・環境再生研究拠点形成プロジェクト」 共同研究者:倉田健悟・山口啓子・瀬戸浩二・園田武・高田裕行 瀬戸浩二・山口啓子・入月俊明・倉田健悟・齊藤誠・高田裕行(2008)中海本庄水域における人為的環境変化に対する生態系モニタリング―西部承水路堤撤去による環境変化の評価―. 日本陸水学会第73回大会. 札幌. 2008年10月13日 他の機関との共同研究:釜山大学の高田裕行博士、東京農業大学の園田武博士との共同研究である。

【安定同位体から見た斐伊川水系下流部生態系】
概要:炭素および窒素安定同位体比を利用して底生生物群集の食物網解析を行った。 期間:2004〜現在 共同研究者:Devid L. Dettman、堀之内正博 資金:ニッセイ財団、科研費若手B 成果発表:Crustaceana Monograph、東水大シンポ、京都シンポ、山陰中央新報、新春発表会 詳細:[安定同位体比を利用した宍道湖と中海の食物網の解析]汽水域生態系の一次消費者には河川流入と内部生産による有機物が主な餌資源であると考えられる。塩分の異なる汽水湖である宍道湖と中海において、餌となりうる物質(懸濁物、堆積物、付着物および水生植物)と底生生物(二枚貝類、巻貝類、甲殻類、環形動物)の炭素および窒素安定同位体比を測定し、塩分環境や食性との関連を調べた。炭素安定同位体比は場所によって大きく変動し、底生生物は局所的な餌資源の利用可能性に依存していることが示唆された。 (1) 多様な食物網の可能性がある汽水域生態系において安定同位体比を使った解析の有効性を示した。 (2) 学会やシンポジウム等で研究成果を発表し、また学内の講義において研究事例として使用した。 (3) 地域住民の関心の高い宍道湖と中海の話題として、公開授業や新聞連載記事で紹介した。 (4) 開削前の本庄水域の食物網の状況を安定同位体比により示し、開削後の変化の指標とした。 (5) 安定同位体比を測定するために共同研究者のいるアリゾナ大学に試料を送付していたが、学内で分析できる機器の購入を目指したものの、達成できていない。 平成16年度〜平成18年度科学研究費補助金(若手研究(B))「斐伊川水系における岸辺インターフェイスの物質動態」 平成16年度〜平成18年度島根大学重点プロジェクト経費「汽水域の自然・環境再生研究拠点形成プロジェクト」 Kurata, K., Horinouchi, M. and Dettman, D. L. (2008) Variation of food sources for benthic organisms in Lakes Shinji and Nakaumi revealed by stable isotope ratios. International Symposium on Restoration and Management of Wetlands -Case Studies and Significant Scientific Knowledge-, 1-2 March, Matsue, Japan 倉田健悟:「安定同位体比から見た本庄水域の特徴」研究発表会-いま、中海(本庄水域)でなにがおこっているのか? 松江市市民活動センター(2007年3月25日) Kurata, K., Horinouchi, M. and Dettman, D. L. (2007) Estimation of food sources for molluscs in Lakes Shinji and Nakaumi. International Symposium on Restoration and Sustainability of Estuaries and Coastal Lagoons -Towards the Wise Use of Lakes Shinji and Nakaumi-, 26-28 January, Matsue, Japan 他の機関との共同研究:University of ArizonaのDavid L. Dettman博士との共同研究である。

【松江市の特異な河川環境の調査と自然再生の可能性】
概要:島根県朝酌川において河川環境に関する研究を行った。 期間:2008〜2015 共同研究者:小池祐介、村松雄将 資金:なし 成果発表:修士論文、卒業論文、陸水学会札幌、新春発表会 詳細:[島根県朝酌川における河川環境の流程変化と健全な水循環に関する研究]島根県松江市を流れる朝酌川は流路延長10km、流域面積44km^2の中小河川である。下流端が汽水湖の宍道湖と中海を繋ぐ大橋川に接続し、下流側の4.7kmは塩水の遡上が観測される感潮域であるものの、周辺の低地に広がる水田の用水として利用される灌漑期は下流に位置する水門が閉じられて淡水域となる。島根県朝酌川の調査を行い、半年ごとに汽水域と淡水域に変化する下流部の河川環境を把握し、健全な水循環の可能性について考察した。

【大橋川改修事業におけるボトムアップアプローチ】
概要: 期間:2005〜2009 共同研究者:島根大白潟サロン 資金:島根ふれあい財団 成果発表:Laguna、大橋川勉強会報告書、大橋川を考える会報告書、滋賀県教員、網走漁協関係者 詳細:

【北海道東部の汽水湖における底生生物群集の調査】
概要:北海道東部の代表的な汽水湖(サロマ湖、能取湖、網走湖など)において沿岸部と湖盆部の底生生物群集を調査した。 期間:2005 共同研究者:園田武・香月興太・瀬戸浩二・山口啓子 資金:平成16年度〜平成18年度島根大学重点プロジェクト経費「汽水域の自然・環境再生研究拠点形成プロジェクト」 成果発表: 詳細:これまで全地点の試料の前処理が終了し、現在より下位のレベルの同定作業を進めている。 (1) 宍道湖と中海を含めた日本各地の代表的な汽水湖に出現する底生生物の群集構造を比較検討する。 (2) 採集した試料の前処理作業(ソーティングと簡単な同定)を通じて学部学生の研究意欲を高めた。 他の機関との共同研究:東京農業大学の園田武博士との共同研究である。

【湖岸景観の多様性と市民協働による再生】
概要:宍道湖と大橋川を対象に岸辺の景観構造について解析した。 期間:2002〜2003 共同研究者:國井秀伸 資金:ニッセイ財団、科研費(國井) 成果発表:陸水学会シンポ 詳細:[宍道湖と大橋川の岸辺景観構造の解析]自然再生推進法による自然再生事業は多様な地域住民の参加が不可欠であり、対象とする自然環境について自然再生の目標像を共有する必要がある。護岸の建設により自然の岸辺が少なくなった宍道湖と改修事業が計画されている大橋川を対象に、分かりやすく簡単に環境データが収集できる岸辺景観について調査方法の検討と予備調査を行った。デジタルビデオで撮影した画像を分析して典型的な岸辺景観を抽出し、宍道湖と大橋川を特徴づけている岸辺景観構造を明らかにした。 (1) 自然再生推進法の主旨と生態学の遷移の考え方を如何にして現場調査の実施に反映できるか考察した。 (2) 学会やシンポジウム等で研究成果を発表し、また学内の講義において研究事例として使用した。 (3) 地域住民が簡便に水環境の現状を把握する方法として、岸辺景観の記述および解析方法を提案した。 (4) 改修が計画されている大橋川の岸辺の自然度が高いことを示し、岸辺環境の保全の必要性を述べた。 (5) 典型的な岸辺景観をGISを利用して表示するシステムを作ることに取り組んだが完成に至らなかった。 平成16年度〜平成18年度科学研究費補助金(基盤研究(A))「宍道湖・中海における自然再生事業に適したモニタリング法の確立」(研究分担者) 倉田健悟(2007)島根県宍道湖と大橋川の沿岸における自然再生と環境調査. 國井秀伸 編 平成16年度〜平成18年度科学研究費補助金(基盤研究(A)) 研究成果報告書. pp. 75-81. 倉田健悟(2006)島根県宍道湖と大橋川の沿岸における自然再生と環境調査. 日本陸水学会第71回大会自由集会. 松山. 2006年9月16日 倉田健悟(2006)宍道湖・中海における最近の環境修復と自然再生について. 第53回日本生態学会大会自由集会. 新潟. 2006年3月25日 Kurata, K. (2005) How do we restore the shoreline environment in a brackish water area?: a goal plus an assessment. International Seminar of the Sustainability of the Precious Water Environment. 29-30 January 2005, Matsue, Japan. 倉田健悟(2004)「宍道湖・中海の岸辺環境の保全および修復の指標は何か」琉球大学理工学部 公開セミナー招待講演.2004年7月26日. Kurata, K. (2004) Diverse shore environments of Lake Shinji. International Seminar on Restoration of Damaged Lagoon Environments. 10-11 January 2004, Matsue, Japan.