徳島(1999〜)

研究内容(詳細な説明)

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【港湾等の劣化した水環境の修復技術の開発】
概要:徳島県の閉鎖的な港湾において、直立構造物が原因とされる内湾生態系の劣化に対する修復技術について研究した。 期間:1999〜2002 共同研究者:上月康則、村上仁士 資金:科研費(村上)、小松島港湾空港事務所 成果発表:環境工学(論文8)、海岸工学、土木学会論文集、AEHM 詳細:[直立構造物に起因する閉鎖的な内湾生態系の劣化に対する修復技術の開発]港湾等の閉鎖性水域における直立構造物(岸壁、防波堤、護岸等)では、懸濁物食性の二枚貝類が垂直面から海底へ脱落すること、懸濁物を摂食した後の糞塊が底部に沈降して堆積すること等、物質循環の点から問題が指摘されている。港湾の底層におけるDOの低下と嫌気的環境下での栄養塩の溶出や硫化物の発生といった現象を改善するため、徳島県小松島港に直立構造物の材質や形状を変えた実証構造物を1999年12月に設置し、アイディアを設計に反映させた実証構造物の構造および機能の効果を評価した。その結果、多孔質のコンクリートを使用することにより生物の生息空間が拡大し、垂直面の基質からの付着生物の脱落や糞塊の沈降を浅い水深の平坦面で受け止める役割は果たされていたものの、実証構造物の前方部分の構造により海水交換が妨げられて溶存酸素濃度が低下することが分かった。

【その他に関わった研究】
 私たちの周りの「環境」を今後どのようにしたらよいか、という問題に対して、様々な視点から研究に取り組んだ。人間社会との関わりを考える上で、環境を改変することにかかるコストや市民の声を反映させる仕組みについて考えることは重要である (A)。また、環境の保全もしくは修復を行う際にはたびたび、防災との両立が求められる。この点について、特に沿岸域における津波に注目して、被害の予測や事前に防ぐための手段を提案した (B)。また、人間の活動の影響が顕著である干潟 (C)、用水路 (D)、港湾 (E) のそれぞれにおいて、対象とする生物に注目した研究や調査方法の検討に関する研究などを行った。

A. 人間社会との関わり(論文6、7)
 沿岸域環境における費用対効果の問題を中心に、社会的に信頼される環境改善施策を展開するための課題の整理と展望を示した。これらの結果は、今後の陸域と海域の総合的な環境改善施策の貴重な知見になりうると思われる。
 沿岸集落のサウンドスケープの特性について、現地調査とアンケート調査から考察した。地域性豊かな好ましいサウンドスケープを形成させるためには、音源となる環境や文化活動を保全していく必要性があると考えられた。

B. 防災と環境の両立(論文4、5、9)
 瀬戸内を除く四国沿岸集落の津波到達時間、最大津波高、越波高を、新たな断層モデル計算と波源域モデル計算の組み合わせから求めた。その結果、越波する可能性のある地域が推定され、震源の位置によって津波高が異なることが明らかになった。
 過去数度の津波による人的被害が多かった高知県土佐市宇佐を対象として、歴史史料調査と津波の数値計算から津波被災特性、特に人的被害の発生メカニズムの検証を行った。数値シミュレーションから、避難開始を早めることにより人的被害を減少させることを示した。
 安政南海地震津波の紀伊水道および豊後水道への津波の進入特性を考察し、近い将来起こるであろう津波に対する両水道への進入特性を予測した。その結果、両水道の入り口付近に波源が発生した場合、瀬戸内海沿岸域まで津波に対する危険度が高くなることが示された。

C. 干潟環境の価値(論文3、10)
 徳島県吉野川の河口汽水域の干潟に生息するスナガニ類の分布と環境要因の関係を調べた。塩分、底質、地高などの環境条件によって出現する種が異なり、多様な環境が複数の種の生息を可能にしていると考えられた。
 干潟環境の調査の信頼性を評価するため、既存の現地調査の結果を統計的に解析し、調査方法の特徴と課題を抽出した。これに基づいて適切な調査方法や調査結果の信頼性の評価手法を提案した。

D. 身近な用水路の生物(論文1)
 メダカの生息環境要因を明らかにするため、かんがい期と非かんがい期において用水路網の調査を行った。その結果、メダカの生息には流速10cm/sec以下の環境が必要であり、流速が最も制限的な要因であることが分かった。

E. 港湾等の内湾性水域(論文2)
 内湾に生息する堆積物食者のマナマコが底質に及ぼす影響を野外実験と室内実験から調べた。その結果、マナマコの移動と摂食行動により堆積物表層付近の硫化物濃度は低下することが分かった。

<成果物(審査付き学術論文)>

  • 1. 都市近郊用水路網におけるメダカの生息環境要因に関する研究 共著 2000年10月 環境システム研究論文集 第28巻: 313-320 メダカの生息環境要因を明らかにするため、かんがい期と非かんがい期において用水路網の調査を行った。その結果、メダカの生息には流速10cm/sec以下の環境が必要であり、流速が最も制限的な要因であることが分かった。 主に研究の計画と考察を担当した。 共著者:上月康則、佐藤陽一、村上仁士、西岡健太郎、倉田健悟、佐良家康、福田守
  • 2. 内湾性水域におけるマナマコを利用した底質改善手法 共著 2000年10月 海岸工学論文集 第47巻: 1086-1090 内湾に生息する堆積物食者のマナマコが底質に及ぼす影響を野外実験と室内実験から調べた。その結果、マナマコの移動と摂食行動により堆積物表層付近の硫化物濃度は低下することが分かった。 主に研究全体の計画と実験、考察を担当した。 共著者:倉田健悟、上月康則、村上仁士、仁木秀典、豊田裕作、北野倫生
  • 3. スナガニ類の生息場からみた吉野川汽水域干潟・ワンドの環境評価 共著 2000年10月 海岸工学論文集 第47巻: 1116-1120 徳島県吉野川の河口汽水域の干潟に生息するスナガニ類の分布と環境要因の関係を調べた。塩分、底質、地高などの環境条件によって出現する種が異なり、多様な環境が複数の種の生息を可能にしていると考えられた。 主に研究の計画と考察を担当した。 共著者:上月康則、倉田健悟、村上仁士、鎌田磨人、上田薫利、福崎亮
  • 4. 四国における津波越波の危険度に関する考察 共著 2000年12月 歴史地震 第16号: 185-193 瀬戸内を除く四国沿岸集落の津波到達時間、最大津波高、越波高を、新たな断層モデル計算と波源域モデル計算の組み合わせから求めた。その結果、越波する可能性のある地域が推定され、震源の位置によって津波高が異なることが明らかになった。 主に研究の目的と考察の一部を担当した。 共著者:佐藤広章、村上仁士、上月康則、倉田健悟、山本尚明、西川幸治
  • 5. 高知県宇佐における歴史津波の人的被害発生メカニズムに関する考察 共著 2000年12月 歴史地震 第16号: 194-202 過去数度の津波による人的被害が多かった高知県土佐市宇佐を対象として、歴史史料調査と津波の数値計算から津波被災特性、特に人的被害の発生メカニズムの検証を行った。数値シミュレーションから、避難開始を早めることにより人的被害を減少させることを示した。 主に研究の目的と考察の一部を担当した。 共著者:杉本卓司、村上仁士、上月康則、倉田健悟、後藤田忠久
  • 6. サウンドスケープの特性に基づく沿岸集落の「海らしさ」に関する考察 共著 2001年3月 日本沿岸域学会論文集 第13巻: 11-24 沿岸集落のサウンドスケープの特性について、現地調査とアンケート調査から考察した。地域性豊かな好ましいサウンドスケープを形成させるためには、音源となる環境や文化活動を保全していく必要性があると考えられた。 主にデータの解析と考察を担当した。 共著者:上月康則、村上仁士、倉田健悟、宮宇地信二、河野秀夫
  • 7. 沿岸域の環境改善施策の実施に向けた”費用対効果”の問題に関する一考察 共著 2001年10月 海岸工学論文集 第48巻: 1386-1390 沿岸域環境における費用対効果の問題を中心に、社会的に信頼される環境改善施策を展開するための課題の整理と展望を示した。これらの結果は、今後の陸域と海域の総合的な環境改善施策の貴重な知見になりうると思われる。 主に資料とデータの整理、および考察を担当した。 共著者:上月康則、山中英生、倉田健悟、太田博子、轟朝幸、山村能郎、村上仁士
  • 8. 閉鎖性内湾における懸濁物の物質循環を活性化させる実験構造物の評価 共著 2001年10月 環境工学研究論文集 第38巻: 239-248 港湾などの閉鎖性海域の問題を解消するため実験的な構造物を設置し、海底へ沈降する有機物濃度と生物群集の関係を調べた。その結果、構造物の前方の海底への沈降物の有機物濃度は直立構造物の前方より低く、実験的な構造物の効果が示されたが、構造物の浅い水深の平坦面に堆積物の増加が見られたため形状を変える必要があることも分かった。 主に研究全体の計画、調査、データの解析、考察を担当した。 共著者:倉田健悟、上月康則、山本秀一、岩村俊平、西村達也、村上仁士、水口裕之、笹山博
  • 9. 紀伊水道・豊後水道における安政南海地震津波の進入特性 共著 2001年12月 歴史地震 第17号: 110-116 安政南海地震津波の紀伊水道および豊後水道への津波の進入特性を考察し、近い将来起こるであろう津波に対する両水道への進入特性を予測した。その結果、両水道の入り口付近に波源が発生した場合、瀬戸内海沿岸域まで津波に対する危険度が高くなることが示された。 主に研究の目的と考察の一部を担当した。 共著者:村上仁士、上月康則、倉田健悟、杉本卓司、吉田和郎
  • 10. 干潟生態系の構造把握を目的とした底生生物調査手法の現状と課題 共著 2002年10月 海岸工学論文集 第49巻: 1111-1115 干潟環境の調査の信頼性を評価するため、既存の現地調査の結果を統計的に解析し、調査方法の特徴と課題を抽出した。これに基づいて適切な調査方法や調査結果の信頼性の評価手法を提案した。 主に研究の計画と考察を担当した。 共著者:上田薫利、上月康則、倉田健悟、村上仁士、白鳥実、桂義教

<成果物(その他)>

  • Influence of sea cucumber on sediment improvement in a closed aquatic environment 共著 2000年10月 4th International Symposium on Sediment Quality Assessment (SQA 2000), pp.77-79 閉鎖的な水域に生息するマナマコの底質に及ぼす影響を2ヶ所の野外実験から調べた。その結果、マナマコを入れた容器内の堆積物の表層付近の硫化物濃度は低下し、酸化還元電位が上昇することが分かった。 主に研究全体の計画と実験、考察を担当した。 共著者:倉田健悟、上月康則、北野倫生、大塚耕司、村上仁士
  • Nutrients immobilization from seawater by new porous carrier made from zeolitized fly ash and slag 共著 2001年6月 3rd International Conference on Marine Pollution and Ecotoxicology スラグとフライアッシュから作成した多孔質の担体によるリン酸とアンモニウムの吸着量を測定した。高い多孔質の特性を持った担体がより栄養塩を固定することが分かった。 主に研究の目的と考察の一部を担当した。 共著者:O. Khelifi、上月康則、村上仁士、倉田健悟、西岡守
  • Analysis of human damage mechanism in flooding of tsunami 共著 2001年7月 PACON 2001 Environmental Technologies for Sustainable Maritime Development, p.16 地震津波襲来時の避難行動の違いによる被害についてモデルから定量的に予測し、既存のデータと比較した。その結果、地震後ただちに避難を開始することにより死者数を減らすことができることが分かった。 主に研究の目的と考察の一部を担当した。 共著者:杉本卓司、村上仁士、上月康則、倉田健悟
  • Development of a new type of breakwater for the environmental restoration 共著 2001年7月 PACON 2001 Environmental Technologies for Sustainable Maritime Development, p.64 環境修復を目指した新しい防波堤を開発するため、実験的な構造物を徳島県小松島港に設置した。実験的な構造物の浅い水深の平坦面では溶存酸素濃度の低下が見られ、基質の生物量を減らすか海水流動を高める必要があることが分かった。 主に研究全体の計画、調査、データの解析、考察を担当した。 共著者:倉田健悟、上月康則、岩村俊平、笹山博、村上仁士
  • Development of techniques to evaluate the environment of Osaka Bay using GIS 共著 2001年7月 Proceedings of International Computers in Urban Planning and Urban Management Conference, Vol.A136 大阪湾の環境を評価するためGISを用いて透明度や溶存酸素濃度のデータを解析した。その結果、底層の貧酸素が生じている面積は1970年代から1990年代にかけて減少しているものの、依然として大阪湾の面積の約20%を占めていることが分かった。 主に資料とデータの整理、および考察を担当した。 共著者:上月康則、倉田健悟、村上仁士、平田元美、多田清富、大塚耕司、中西敬、重松孝昌
  • Distribution pattern of Ocypodidae and storage function of organic matter by Macrophthalmus japonicus in estuarine tidal flats 共著 2001年10月 Asian and Pacific Coastal Engineering 2001, Vol.2, pp.1014-1021 河口干潟に生息するスナガニ類の分布パターンとヤマトオサガニの有機物貯蔵量を調べた。2000年8月において河口干潟全体に1億2000万個体のヤマトオサガニが生息し、吉野川流域へ排出される年間の全窒素の約0.06%に相当すると推定された。 主に研究の計画と考察を担当した。 共著者:上月康則、倉田健悟、村上仁士、上田薫利、中野雅美、福崎亮、桂義教、白鳥実
  • Development of porous carrier made from zeolitized fly ash and slag for ammonium removal from seawater 共著 2001年10月 The 17th International Conference on Solid Waste Technology and Management スラグとフライアッシュから作成した多孔質の担体によるアンモニウムの吸着量を測定した。その結果、溶液のpHの低下とともにアンモニウムの吸着量は増加することが分かった。 主に研究の目的と考察の一部を担当した。 共著者:O. Khelifi、上月康則、村上仁士、倉田健悟、西岡守、山本明佳
  • Succession process in the structure for the environmental restoration applied to enclosed sea areas 共著 2001年11月 EMECS2001, p.242 閉鎖性海域に適用された環境修復のための構造物における生物群集の遷移を調べた。実験的な構造物上に生息する生物の現存量は、対照とした防波堤より約8ヶ月後に大きくなったが、種類数は小さかった。 主に研究全体の計画、調査、データの解析、考察を担当した。 共著者:岩村俊平、倉田健悟、上月康則、西村達也、村上仁士、水口裕之、笹山博、山本秀一
  • Effects of deposit feeder Stichopus japonicus on algal flourish and organic matter contents on bottom of enclosed sea 共著 2001年11月 EMECS2001, p.263 人工内海や閉鎖性海域においてマナマコの底質に及ぼす影響を室内実験から調べた。その結果、マナマコの移動と摂食行動により表面の微小藻類の繁茂が抑制されることが分かった。 主に研究全体の計画と実験、および考察を担当した。 共著者:北野倫生、倉田健悟、上月康則、村上仁士、山崎隆之、芳田英朗、笹山博
  • Removal efficiency of deposited organic matter utilizing feeding habits of Stichopus japonicus 共著 2002年7月 PACON 2002 The Ocean Century, p.135 堆積物食者のマナマコに摂食された堆積物の有機物量を室内実験により測定した。その結果、胃と第一腸において全有機炭素と全窒素濃度は高くなり、マナマコは摂食する際に濃度の高い餌を選択している可能性が示唆された。 主に研究全体の計画と実験、および考察を担当した。 共著者:山崎隆之、倉田健悟、上月康則、森田正樹、笹山博、村上仁士